〜 お気に入りの車達 〜

F40の解説。

確かにこの車は、1000台以上も作ったから、巷ではよく眼にするくるまだ。
でもこいつをそれらしく走らせることの出来る人は、買ったオーナーか、私らみたいな車屋かで 
そう数は多くは無い。
だからその実態は伝聞のような伝え聞きはあっても、正確には伝わってないはずだ。
それは、例えば ディノなんかでも同じ。 ミウラに至ってはまともに動くのか?などと思われること
もある。

幸い私はこの車に新車のころから何台も乗ったことがある。
また、私の親友の 南原から(例のオートトレーディングの社長、マネーの虎に出てた人と言うほうが
早いか)ヨーロッパで走ってた中古のF40を預かり、これ幸いと?走り回った経験もある。
ドイツでは私のエージェント、ピーターが持ってたF40でアウトバーンを全開で走ったし、
彼には少し遠慮しろと後で言われたけど。
はたまた、アメリカではUS仕様のF40にビバリーヒルズのイベント会場から運転していったこともある。

それでもすでにこの車が作られて、(ファーストデリバリーは1987年か)、もう17年も経っている。
もともとが耐久性など考慮しない造りだから、(メインフレームもカーボンコンポジットをグリーンの特殊
な接着剤でつけてる)程度の良いF40は 非常に少なくなってきているのが現状だ。

F40のロードインプレ。
まず、カーボンの軽いドアーを開け、シートに乗り込むわけだが、でかいサイドシルがじゃまで すん
なりとは行かない。

それをまたぐ感じだ。さいわい手を添えるには便利だが。
シートは見てのとおり、完全なバケットだ。しかもドライバーを前にのめらせるような、(シートバック
が立ちすぎ)ポジション。
けしてリラックスは出来ない。 シートスライドを下のレバーで合わせると (クラッチを踏み込むこと
が出来るくらい)ポジション的には悪くない。172センチの私でクラッチ(結構重い。
いや硬いといいうほうが正解か)を踏み込むと丁度、ステアリングが良いポジションにある。

次にメインキーをONし、キーンというトランジの音を聞いたら、プッシュ式のセルスターターボタン
を押す。
するとこのV8エンジンはすんなりと ぼぼぼぼと言う音とともにアイドリングを始める。
ステアリングを斬って動き始める、その前にガレージから出すんだったら、段差に要注意だ。
フロントのリップスポイラーは本体の下にゴム製のが付いてるが、大概こすってる。
必ず斜めに出るのが鉄則だが、それでもよくこする。交換部品と割り切ったほうが良い。

無事に路上に出た。ステアリングは意外と軽い。視界も前方向は悪くない。
問題は後ろだ。サイドはドアーミラーでカバーできるが、真後ろはアクリル製のエンジンカバー?
のせいで非常に見ずらい。特に一番見たい真後ろがアクリルの縦のラインが入っていてぼやけて
見えない。
だから高速で後ろにパトカーなんか付かれても、ほとんど判らない。(最悪だ)
と言うことは、常軌を逸したスピードで走り回るか、とろとろ100キロで走るかの選択になる。
例のリヤーウイングは殆ど視界には入らない。

信号で止まった。3車線の真ん中でしかも先頭だ。隣にはスープラが好奇心一杯の眼で見ている。
奴らの考えてることは、この派手な車に乗ったおっさん、どんなスタートするのかな?
俺の車も結構速いぜ、シグナルグランプリでも一丁やったろか!
そこで私は冷静に辺りの状況を観察する。
路面はドライだ。前に人が飛び出す気配も無い。次の信号までは結構距離もある。
シフトを1速にエンゲージし、(結構硬い。BBなんかのほうがスムーズだ)
アクセルを3000まですっと踏む。
GOだ!クラッチを少し滑らしながらつなぐのと同時にアクセルを踏む。
多分出足はスープラのほうが早いかも知れない。下のトルクがあるから。
でも完全にクラッチがつながり、うまく3000回転をキープ出来てれば 敵はいない。
一瞬にして、タコは7000を指し、2速に入れて素早くクラッチをつなぐと又、怒涛の加速が始まる。
まだ、前の車に追いつかなければの話だが。

私も仕事柄速いターボカーにも いろいろ乗ったが、こんなにドッカンターボの車も珍しい。
似てるのが、ルノーのサンクターボだ。(1982年頃の)
F40みたいな迫力はないけど、1300ccの割には面白い車だった。
ブガティのEB110は クワトロターボすなわち4ターボだ。これも結構速い車だったが、
F40と比べると、ボディが重く、味付けがマイルドだ。
ポルシエの959は直列2段式?ターボで、一回めがきて、また2度目の加給が始まるという
変なシステムだった。

さっきのシグナルグランプリの話に戻るが、私も一度ヒヤッとしたことがある。
同じように路面はドライでスタートした私はアクセルを踏みすぎた?のだ。
するとF40は5000回転以上はタイヤが空転し、駆動が掛からない。
すぐに2速に入れて加速すると、始めのコンマ数秒タイヤが空転し、やっと駆動がまともに路面に
掛かったのだ。
このときの車はヨーロッパで乗り込んできた、エンジン絶好調の車だったから、余計にそうなった。
このとき路面がドライだったにもかかわらず、リヤータイヤは左にケツをふろうとしていたから、
もし路面がウエットだったら、一瞬にしてスピンすることになる。(直進でだ!)

それがもっと悪い状況で現実になったことがある。
当時私の得意客がいて、沢山の車を買っていてくれた。
ベンツの300SL ガルウイング、ロードスター、280SE3,5カブリオ、600リムジンなど。
その人が、たまたま値段の落ち着いたF40を買おう(1992年くらい)といってくれたのだ。
スイスに最終型 車高調整付を見つけた私は現地に飛んで、船積みの段取りをした。
時は2月。そしたら待つのはイヤだから、費用持つからエアーで運んでくれと言う。
断る理由も無いから、直ぐに手配をした。無事に成田に着いたF40を客に見せ、
直ぐに車検の準備と、あるショップに入れたのだ。
この2月というのが、問題だったのだ。
悪いことに、近くの陸運事務所に行く日の前日、うっすらと雪が積もったのだ。
ドライバーはこの道数十年のベテラン、ゆっくり走ればOKと思ったのだろう。

ところがこの車は甘くない。
信号が変わりスタートしたその丸きり新車のF40は、こともあろうに直進状態でスピンし、
左のガードレールに前後ぶつけて止まったのだ。
慌てて見に行ったその新車!(くどいか)は見るも無残なばらばら状態で死んでいた。
その後、私が過ごした辛い日々は言うまでもないが、(なんと保険に入ってなかったのだ)
前向きにみんなで努力することで、乗り越えることが出来た。

そこで教訓、
1)絶対にこの車をなめてかからない事。
ミウラが闘牛なら、F40は毒蛇だ。牛はまだ人間とコミニュケーション取れるが、
蛇は無理。

2)このエンジンは3000ccもあるのに、下のトルクが全然無い。
3500回転辺りから、急激にトルクが出る。おまけにリヤータイアは極太ときたもんだ。
路面が濡れてれば、スリップするのは当たり前。

3)サスペンションが性能良いのでついコーナーで無理をする。
旨くなった気がするわけだ。でもオーバースピード気味で入っていったら
エンジンコントロールで立て直すのは無理。

パート2 300キロの世界の巻。
みんなも時々は空いてる高速道路で、200キロくらいは出したことがあるだろう。
でも、200キロまでと、それ以上のスピードは全然次元が違ってくる。
まず、空気抵抗が200キロを過ぎると相当なものになる。
当然、それを跳ね除けるだけのエンジン馬力と、空力の良いボディが必要だ。
昔私は、エンジン最高のフェラーリ ディトナで270キロ出したことがあるが、
このときは、220,230キロ辺りからじわじわとスピードが伸びるという、エンジンの馬力を感じ
させるクラッシック?な加速だった。

その点、このF40はさすがに今までの車とは次元が違う。
ある時、私のお客さんと早朝ツーリングに行ったことがある。1991年頃だ。
車は2台。私が始めて仕入れて彼に売った、F40. それとお客が前から持ってるポルシェ959.
2台とも最高速300キロをうたう 超高速車だ。
都内から行き先は、成田空港を過ぎて千葉の潮来までだ。この道は成田を過ぎると2車線に
なるが、ずっと直線がつずき、交通量も少ない。出たのが日曜の朝6次頃だったんで、成田に
は直ぐに着いた。

F40をドライブするのは私、ポルシェはお客。彼は長い間ずっとポルシェを乗り継いできて、
フェラーリを買ったのは今回初めてだった。
それだけに、F40がどんな走りをするのか興味深々。
私は前が空いたのを確認して、すっと200キロまで車速を上げた。これは3速でターボを効かせ
れば一発だ。
勿論ポルシェは付いて来る。そこで私は4速に入れると同時にアクセルをフルにした。

するとタービンの加給が充分効いているせいか、間髪いれずに加速は始まり、(するするという
スムーズな感じで)直ぐにスピードメーターは250キロ、手を離したときに振られないよう気をつけ
ながらシフトを5速に叩き込むとあっというまにメーターは300キロを過ぎていた。この時の走行
感覚は物凄いスピードで地面を疾走している感じとでも言えばよいか、車も低いし、アイポイントも
低いので殆ど地べたに張り付いているとでもいう感じ。

事実、F40 は200キロを越すとダウンフォースが有効に働き、直進性は物凄く安定していた。
音は車が風を切る音のみでエンジンの音はまるで聞こえない。

ただ、問題は人間の眼が着いて行かない。その頃私は40歳くらいだったから、まだなんとか眼が
着いていったが今だったら無理だろう。
300キロの場合は視界が凄く狭くなり 周りが殆ど見えなくなるのだ。
少しアクセルを戻し、200キロくらいに落として後ろを見ると、959が着いてこない。
この理由は戻りで車を交換して判った。

F40は当然前後のカウルが開くから、サスも丸見えだ。
この特別なんでもないようだが、コンベンショナルなサスは非常にしっかりと締め付けてある。
簡単に言えば、バランスがよく、シャープだ。おまけに軽いと来ている。
軽いけど、高速になるとじわっと安定するのだ。この辺りさすがだね。でも時々328でハンドリング
がムチャいいのがある。
安いくせになんでだろ。288GTOはサスがだめ。バランスが悪い。

潮来に着いて朝食を食べながら話をした。
すると彼曰く、200キロで加速をした時、959は加速をするのだが安定性が悪いと言う。
その時、彼はなんと3台も 959を持っていたのだが、(コンフォート仕様と 固定サスのスポーツ
パッケージ、もう一台プロトタイプ!)

ご存知かも知らんけど、959は当時ハイテクのかたまりみたいに電子制御のサスペンション、
(車高調整とか前後のトルク配分とか4WDだから。)を使っていたから、少しでもセンサーが異常
だったり、コンピユーターの調子が悪いと本来の性能を発揮できないわけだ。
そのてん、F40はシンプルな作りだからそういう心配は無い。

事実、帰りに車を交換し、私が959をドライブしたら、200キロでもなんだかふらふらし、それ以上
出す気になれなった。
それとエンジンのふけ方が、F40はシャープな感じだが、959はなんとなくダルイ。
(私は959に5台以上乗ってる)

結論から言うと、F40は公道を走る最低限の装備を備えた、スパルタンなスポーツカー。
しかもV8ターボと言うエンジンを選択しているため、低速ではなんも面白くない。
スパルタンなシートに囲まれて周りの視線を浴びながら とろとろ走るのは苦痛以外無い。
だからみんな少しでも前が開けば、麻薬のような加速を味わいたいためにターボを効かすわけだ。
このF40を手に入れるということは、ターボジャンキーの仲間に入ると言うことを意味する。
そのことをよく理解しないと、この車には手痛いしっぺ返しを食らう。
始めに言った、ランボルは闘牛だが、F40は毒蛇というのを覚えておいて欲しい・

F40ライトウェイト仕様

F40 スペシャル仕様



この画像の車は1991年式、スタンダードな車だ。







グリーンに見えるのが、接着剤。